紙図面のデジタル化に見る「新しい業務委託」<br>~障がい者就労支援事業者との連携~ 紙図面のデジタル化に見る「新しい業務委託」<br>~障がい者就労支援事業者との連携~

※役職・内容は2020年11月取材当時のものです。

障がい者就労支援事業を営むマザーアースと、建設会社の新発田建設。ともに新発田市で事業を展開する二つの企業がタッグを組み、新たな試みをスタートさせました。それは、新発田建設がこれまで手掛けてきたプロジェクトの紙図面をデジタル化することです。両社にとって初めての試みで大きな意味を持つものになりました。業務委託の経緯と社会的な意義について、マザーアース代表の秦 徹さんと当社社長の渡邊に聞きました。

マザーアースはどのような会社なのですか。

秦代表: 障がいを持つ人に対して、就労の場を提供する就労継続支援A型事業と、就労に必要な知識の習得やスキルの訓練、求職活動の支援、マッチングなどを行う就労移行支援事業を行っています。発達障害や指定難病、病気の後遺症などで、働きたいけれど、うまく行動に移せないという人のためのサポートですね。当社の場合、利用者さんは10代、20代の若い世代が多いです。

事業委託がスタートしたきっかけを教えてください。

渡邊: 実際に動き出したのは2020年春ですが、きっかけは2018年に「障がいのある人が自分の得意なことを活かして働ける社会を」という秦さんの講演を聞き、その思いに共感したことです。障がいだけでなく、何らかの制約があって自分の力を発揮できない人がいるなら、それは本当に残念で、社会にとっても会社にとっても損失だと以前から思っていたものですから。そこで秦さんに「どういう仕事ならお願いできますか」と声を掛けました。

秦代表: はじめは私たちが経験のある清掃作業を工事現場周辺でさせていただきました。その後、図面のデジタル化のお話をいただきました。

渡邊: 創業100年を迎えた当社では、CAD化される前の手描き図面が膨大に保管されているのですが、保管スペースや管理方法の観点からデジタル化が長い間懸案事項だったのです。ですが、製本された図面を裁断してスキャニングするのは、手間がかかる上に難易度も高く、なかなか取り掛かれませんでした。

秦代表: うちには高性能のデジカメがあり、画像加工などPC作業が得意な利用者さんがいます。そこで、図面を撮影して、画像加工により鮮明化してデータに変換するという方法を提案しました。

渡邊: そういう方法があるのか、と驚きました。大型図面のスキャニングには費用も掛かるので、魅力的な方法だと思いました。

実際にはどのように業務を進めているのですか。

渡邊: 構造物や建築物の改修や街の再開発などが予測される、必要性の高いものを優先して、デジタル化をお願いしています。

秦代表: 職員が利用者さんに同行して新発田建設を訪問し、図面を受け取り、持ち帰って撮影します。撮影データはクラウドで管理するので、画像加工は施設内でも在宅でも、利用者さんの状況に合わせて行うことができます。この業務を請け負うにあたり、誰もが担当できるように、撮影や画像加工での補正値などはプリセットし、作業はマニュアル化しました。また、作業ではチーフを決めて、利用者さん同士が教え合うようにし、継続して業務が請け負える体制を作りました。

実際の作業の様子

渡邊: かつて主流だった青焼きの図面は、時間とともに劣化し、かすれも生じています。それを正確に鮮明化するのは細かくて根気の必要な作業です。本当に大変な仕事をしていただいて、感謝しています。

秦代表: こちらこそ、利用者さんの障がいや体調により、タイトな納期だとお受けできないこともあるのですが、その点もご理解いただき助かっています。ありがとうございます。

渡邊: 先月は2000枚を納品いただきましたが、図面はまだまだあるので、今後も末永くお願いしますね。

この業務委託はそれぞれの会社にとってどのような意義がありますか。

渡邊: 図面は宝です。創業以来の当社の歴史そのものであり、技術者の格闘の記録であり、地域の発展の重要な資料でもあります。ですから、私たちはそれを残し、次代へ伝えていかなくてはなりません。社会的な意義のある業務だと思っています。

秦代表: 働きたいという気持ちを叶えられること、対価をもらう仕事をすることによって責任感や達成感が持てることは、利用者さんにとって大きな意味があります。今回の仕事には歴史を残すという意義があり、新発田建設さんという会社に必要とされていると利用者さんに伝えていますが、それは、気持ちの安定や自信につながっていると感じています。

渡邊: 人口減少が進んでいくと、今後は建設業界の人手不足もさらに深刻になっていくでしょう。モノづくりに向き合わなければならないのに、それ以外の様々な仕事に忙殺されて集中できないという状況に陥らないよう、今から、対策をとっていかなければならないと思っています。また、仕事と育児や介護などが両立でき、男性も女性も、一人ひとりが力を発揮できるようにアシストする体制も必要です。ですから、マザーアースさんには、これからもサポートをお願いする場面が出てくると思います。

秦代表: そうですね。お互いに情報を発信し、合致できるところで協力し、新しい仕事につなげるという好循環を作っていけたらいいですね。

デジタル化をキーワードとして、歴史を残すという社会的意義と、障がい者の就労を支援するという社会的意義が重なってスタートした業務委託は、マザーアースと新発田建設の双方にとって新たな価値を生み出しています。そして、さらなる可能性も見えてきました。

今回ご登場いただいた秦 徹さんが代表を務める合同会社マザーアースのHPはこちらからご覧いただけます。ぜひご覧ください。